先日YouTubeのおすすめに【ゆっくり解説】ワンピース界隈がギスギスしてない? ワンピースが批判的な声が目立つ理由を解説、考察【ONE PIECE】という動画が表示された。私はYouTubeやTwitterなどのSNSをあまり利用しないので、ギスギスしていることすら知らなかったのだが、どのように批判されているのかが気になったため試しにこの動画を観たところ、妥当とは言えない批判がかなり多いように感じた。はじめに断っておくと、私はワンピース読者の1人ではあるが信者ではなく、面白くないという意見自体を否定しない。たとえ一流シェフが作った料理だとしても、美味しくないと思う人がいるのは当然だ。なにしろ私もそう感じることはある。このような立場から、何を以ってワンピースが批判されているのかを見ていく。
キャラ崩壊問題
この動画ではじめに紹介されているのが、キャラ崩壊問題だ。初期と現在とでキャラクターの性格が全く違うと言われている。例として挙がっているのはルフィ、ナミ、ゾロの3人だ。
ルフィに関しては、初期はバカな行動の裏に相手の本心を察する賢さがあったが、今では不味い料理で食料をすべて使い果たすといったように、単にバカなだけになっているという指摘だ。しかし君らが愛してやまない初期のルフィは、航海術を持たず、帆もない手漕ぎボートで海に出て漂流するような計画性の無さを発揮しているし、ウイスキーピークでゾロが暴れているのを「宴で好物がなかったから」だと勝手に勘違いし、殺す勢いで戦いを挑んでいる。ルフィは初期から基本的に単なるバカであり、稀に本心を見透かしたり物事の本質を突いたりする人物なのだ。更にそれは現在でも特に変わっておらず、基本的にバカでありながら、レベッカとキュロスのことを気にかけたり、一味に戻ろうとしないサンジに対して本心をさらけ出すよう促したりなど、人の本心を見透かして行動できる賢さを稀に発揮している。
ナミに関しては、子供に対する接し方が180度変わったと言われていて、アーロンパークでは子供嫌いだったのが、いつの間にか子供好きになっているとのことだ。しかしこれは致命的に間違っていて、アーロンパークで子供に対して暴行を加えたのは、その子供がアーロンに挑もうとしていたからだ。ナミは誰も死なないでほしいと思っているため、無謀なことをしないように血気盛んな子供を諫めたに過ぎない。正直な話、これを子供嫌いだと断定するのは、普段の生活やコミュニケーションが心配になるほどのレベルの低さだ。なお少し話が逸れるが、子供への攻撃に過剰に反応しているときのナミに対しては私も鬱陶しさを感じる。
また、ホールケーキアイランドでサンジをビンタした件に関して、サンジの事情を知った上での行動とは思えないと言われているが、そもそもルフィたちはサンジと家族がどんな関係なのかや脅されていることを知らない。知っているのはサンジとプリンの結婚式のことと、サンジがプリンとの結婚を断った(プリン談)ことだけだ。つまりナミ視点では、黙っていなくなったサンジを連れ戻しに来たところ、勝手に一味を抜けてビッグ・マム側に付くことを決めただけでなく、人が変わったかのような侮辱発言をして無抵抗の船長を一方的に攻撃してきたという状況なのだ。読者の視点と各キャラクターの視点を混同してはいけない。
最後にゾロに関しては、仲間思いなはずなのに、ゾウでサンジがいなくなったときに見捨てるような発言をしたのはおかしいと言われている。しかしここで「コックの野郎、ビッグ・マムのところに行くなんて大丈夫か?不安だな……」などと言おうものならそれこそキャラ崩壊ではなかろうか。ゾロとサンジが少なくとも表面上では犬猿の仲であるのは皆が認めるところであり、ゾロがサンジを気遣う発言をするはずがないし、ゾロの感情としてもできるはずがない。そして注目すべきは、その後ペコムズがヴィンスモーク家について説明するシーンで、ゾロは興味ない振りをしながらもひっそりと屋外で話を聞いていて、サンジを心配していると指摘されたときには「斬るぞ」ではなく「ケるぞ」と言っていることだ。これは明らかに本心ではサンジを心配している証左だろう。
これ以外にもキャラ崩壊だと言われているシーンはあるようだが、挙がった例がこの程度であれば、読者の知能が低いが故の的外れな批判だと判断せざるを得ない。それに、「2年前」と「2年後」でキャラクターの性格が変わるのは当たり前だ。仲間になる前と後で置かれている状況が大きく変わったキャラクターが多いし、旅での様々な濃い経験を通して物事の捉え方が変わるのは自然だ。現実でも、2年もあれば自分の立場や考え方が変わっていくだろう?
設定の後付けやインフレ問題
この動画で後付け設定の例として言われているニカについては、正直なところ私も後付け感が強いと感じた。ワンピースは違和感なく後付けをするのが上手い漫画ではあるが、ニカに関しては後付け感をぬぐえなかった。ルフィがクロコダイルを倒して五老星に目を付けられた時点で一言でも言及があるなどであれば違和感はなかっただろうが、そういったものが一切なく、ニカの発覚と覚醒の感覚が短すぎたのは残念だ。戦闘に関しては、決めるべきシーンでしっかりと決めてくれるのは好感だが、ふざけるべきではない状況でもふざけているように見えてしまうのは好きではない。現時点で唯一良いと感じるのは、ルフィ本人はあくまでゴムゴムの実として認識していることだ。最終的に神の能力だと認識してしまうのは仕方がないかもしれないが、ニカだから戦うというような責務や役割などを背負わずに終わってほしい。いずれにせよニカ関連に関しては妥当な批判のように思うし、作者もある程度の批判は覚悟してのことだったそうだ。
インフレ問題に関しては、五老星や神の騎士団が例として挙げられている。彼らが強すぎると言われているが、能力の全貌が見えていない状況で強すぎると判定するのは早計だろう。ギミックや能力の謎を解くのが対能力者の戦闘での醍醐味(カリファ談)なので、その前段階で強すぎると騒ぐ必要はない。特に初見殺し性能の高い能力であればなおさらだ。無敵かと思われたクロコダイル戦で水や血という打開策を得たように、これから不死身ギミックを攻略するはずだ。
セリフ量、書き込み量、長期化問題
この動画では、セリフ量や書き込み量が多すぎて読みづらくなっていることが次の問題点として挙げられている。しかし私がそのように感じたことは一度もない。確かに書き込み量は初期と比べると明らかに増えているが、何をしているか分からなくなることはない。スマホなどの小さい画面で読んでいる場合はそうではないのかもしれないが。セリフに関しても、多すぎて読みたくないと感じたことは一度もないし、そもそも例として挙げられていたシーンは、明らかにセリフが多いシーンと、短い決め台詞のようなシーンとを切り取っていてフェアではない。
連載の長期化に関しても同様であり、長くて分かりづらいと感じたことはない。長くてマンネリ化しているといった意見なら理解できるが、内容が分からないという意見は全く賛同できない。読みさえすれば内容の理解は容易にできる。無駄に長い同じような過去編に飽きたという声もあるが、確かに悲しい過去という大枠で見れば同じだが、内容まで見ると同じではないだろう。それで言うならバトル漫画は大枠で見れば敵を倒すことの繰り返しだ。
正直に言って、彼らの言っていることが本当に理解できないのだ。おそらく現代人はショート動画などの短いコンテンツに染まりすぎてバカになっている。1行程度の文章すら読むことができないし、1つのコンテンツに時間をかけることもない。読者がバカになった反面、ワンピースはその逆を行くような作品作りをしている。その意味で今のワンピースは時勢に合っておらず、これらの批判を招いているのだろう。
バカは漫画すらも読めない
漫画を読むにも一定以上の知能が必要だ。「昔のワンピースはもっとシンプルで分かりやすかった」などと反論があるかもしれないが、初期も初期であるナミの子供嫌い問題すら理解できていない人が何を言っても説得力はなく、自分は理解できていたと勘違いしていただけに過ぎない。というのも、以前理解できていなかったのは、直接は描写されない人物の心理が中心であり、答え合わせの機会がないため自分の知能が低く誤った解釈をしていることに気付いていなかった、しかし現在は長期連載などの要因によって、ストーリー展開といった目に見える形で自分の知能の低さが露呈し、それを作品側に問題があるように押し付けているというわけだ。加えて、ショート動画などによる脳の破壊がこの動きを加速させている。
冒頭にも触れたように、批判のすべてを否定しようとは考えていない。単純に面白くないという批判や、連載初期から読んでいて理想のワンピース像を強く持っているが故の批判などであれば理解できる。しかし少なくとも今回の動画を観る限り、読者の知能の低さが原因になっている批判がほとんどだ。この機会にワンピース関連の掲示板や動画なども閲覧してみたのだが、自分の勝手な解釈を基に論を展開する人や、どこをどう読めばそうなるのかが分からない誤った理解に基づいて批判する人、事実と予想を混同してしまっている人を一定数観測できた。特に「最近のワンピースは冗長すぎてつまらない」という内容の動画が1時間以上の中身の薄い冗長なものだったときには笑いが出た。バカには一刻も早く漫画を読めるようになってほしいものだが、ショート動画をはじめとする脳の破壊者が社会に蔓延している限り、それは進行および増加する一方なのだろう。