2026年4月にSwitch版がリリースされ、今まで敷居の高かったポケモン対戦に新規プレイヤーが参入し、さらに6月にスマホ版が登場したことによってより話題になっていると噂のチャンピオンズだが、とあるダメージ計算ツールを発端に、Twitter上で騒動が巻き起こっている。騒動の規模が大きくなったことで、様々な話題に飛び火しているのだが、元々はダメージ計算ツールの是非を問うような騒動だ。私はポケモン対戦をBWからUSUMまで取り組んでいて、言い換えれば現在は稀に動画を観る程度なため、この騒動に関わるつもりはなかったのだが、おすすめ欄に大量の関連ツイートが表示されることに加え、純粋にトピックとして面白いと感じたことから、この件に触れつつ、ポケモン対戦の特異性について考えていきたい。
ダメージ計算はチートではない
一部の人はダメージ計算を、次ターンの与ダメージ及び被ダメージを不正な手段で予測するものだと勘違いしているのではないかと私は感じている。しかし実際のダメージ計算とは、煩雑な仕組みはさておき、計算式に則ってダメージを計算するものでしかなく、特別な技術ではない。例えば攻撃182のガブリアスがレベル50のピカチュウにじしんを撃った場合、必ず一撃で倒すことができる。必ずというのは文字通りの意味だ。ピカチュウがHPと防御に努力値(チャンピオンズでいう能力ポイント)を振っていない場合は311.0~367.3%のダメージを、HPと防御に努力値を振り切っている場合でも143.7~170.5%のダメージを与えられることがダメージ計算から分かる。残念ながらポケモンは生物ではなくデータなため、アニメのように気合と根性がダメージに寄与することなく、全て計算式で決められており、計算式さえ分かれば、誰が誰にどの技を使うのかといった変数を代入することで、ダメージを求められるのだ。
このようにダメージ計算自体はチートではなく、内部で行われている計算を目に見える形で行うだけであり、ダメージ計算ツールは電卓やExcelのような道具に過ぎない。そしてこれのおかげでポケモン対戦の競技性の一部が支えられていると言える。パーティ構築の時点でダメージ計算をして努力値の振り方を決めることで、完成度の高いパーティと、根拠のあるプレイングを実現できるのだ。
それに、ダメージ計算を前提にした概念として努力値が存在しているという見方もできる。初代と金銀においては、努力値は全ステータスに最大まで振ることができたが、ルビー・サファイア以降では総量が制限され、限られたリソースをどのように分配するかという、プレイヤーの個性が出る要素となった。この際にダメージ計算を行って努力値の調整をするしかない(もしくは感覚で振るかの2択である)わけだが、これは逆説的にダメージ計算が前提になっていると言えるだろう。新しい世代になる毎に明らかに対戦への参入のしやすさが改善されてきたことや、チャンピオンズでは努力値を目に見える数値として調整できるようになったことからも、ダメージ計算自体をポケモン公式が、少なくとも否定する気はないと考えられる。
対戦中のダメージ計算は不正なのか
ダメージ計算自体はチートでも不正でもないが、対戦中のダメージ計算は不正ではないのかという論点は非常に興味深い。ポケモン対戦界隈では、少なくともオンライン対戦において、外部ツールを用いた対戦中のダメージ計算は常態的に行われてきた一方で、別のゲームをプレイしてきた人や一般的な感覚からすると、外部の力を借りて有利に立とうとしていると見えてしまうのも自然なことである。しかも対戦中のダメージ計算は、プレイヤーの意思決定に影響し得るためなおさらだ。
しかしダメージ計算は対戦相手のポケモンの努力値データを参照して行うものではない、ということには言及しておく必要がある。ダメージ計算でできることは、相手のポケモンの努力値の推定だ。例えば攻撃182のガブリアスが同じくガブリアスにじしんを撃った場合、相手のガブリアスがHPと防御に努力値を振っていないと、49.2~58.0%のダメージを与えられる。そして実際にじしんを撃ち、対戦相手のガブリアスに対して45%しか与えられなかったのであれば、相手のガブリアスがHPや防御に努力値をいくらか振っていることが分かるというわけだ。
これは不正なのか不正ではないのかというルールの話ではなく、スポーツマンシップのような話だと私は考えている。例えば麻雀でも大富豪でも何でも良いのだが、既出の牌やカードを頭の中で把握することは普通に行われている一方で、暗記の代わりにメモを取るような人がいた場合、対戦相手からは嫌な顔をされるし、見栄えとしても悪いだろう。つまり頭の中で処理するか、反則ではない範囲で外部の力を借りるかで、印象が異なるというのは事実としてあると考えられる。ダメージ計算の話で言うなら、その場で暗算をしたりダメージ計算の結果を予め暗記したりしておくというのは称賛に値する一方で、ツールを用いるダメージ計算はメモを取ることに該当し、褒められるものではないということになる。しかしこれは、自分にしか分からない印を牌やカードにつけておくようなものではない、つまり本来であれば不可能なことを実現できるものではないため、オンライン対戦においては取り締まる方法もないということも相まって、ルール違反として裁けるものではなく、プレイヤーの負担を減らす便利ツールを使って良いのかというスポーツマンシップの問題になるというわけだ。
重要なのは、スポーツマンシップに強制力はないことと、ポケモン対戦におけるスポーツマンシップは、ポケモン対戦界隈の無意識な合意形成によるものだということである。つまり大多数が対戦中のツール使用に疑問を抱かない場合は何の問題もなく、実際に今までこのような議題が上がってくることはなかった。ツール使用に反対の声を上げることを無意味だと断じるつもりはないが、既にインフラとして根付いているものをルールとして排除したいというのであれば、相応の論理を持ってくる必要があるだろう。
なお今回の騒動の根幹である、ゲーム画面をキャプチャすることで、対戦中のダメージ計算をスムーズに行えるツールの是非についてだが、利用規約、つまり「法」の解釈という話になるため、確定的なことは何も言えない。私という素人目線では、ゲーム画面を写真に撮る行為は不正な方法でデータを取得しているわけではなく、ツールがゲーム上で稼働しているわけでもないため、利用規約に反していないのではと考えてしまうが、実際のところは公式側の反応を待つ他ないだろう。もちろん何の反応もない可能性もあるが。
ポケモン対戦の特異性
今回のツールだけが「法」の影響を受けるというような書き方になってしまったが、「法」の観点から見れば、そもそもポケモン対戦の土壌自体が怪しいということは把握しておきたい。プレイヤーが当たり前に知って活用してきたダメージ計算式や種族値、努力値を始めとするほぼ全ての情報は、解析によるものだとされている。ポケモン対戦界隈のバイブル的存在である『ポケモン徹底攻略』も、解析によって得た情報を掲載していて、いわば「不正な」手段を使っているというわけだ。ポケモン対戦の歴史は、「不正」の上に積み上がっていると言っても過言ではない。
ただし任天堂は、ゲーム内では基本的に知り得ない情報を大量に掲載している『ポケモン徹底攻略』の内容に問題はないとしていて、「不正」ではあるが不正ではないという絶妙な立ち位置にあると示している。これらの「不正」は公式側にデメリットがない、もしくは少ない一方で、コンテンツやコミュニティの興隆に繋がっているというメリットが大きいことにより、もしかするとなし崩し的な側面もあるかもしれないが、黙認されているような状態だと言えるだろう。実際のところ、ポケモン対戦への導線が整い始めたのはここ数世代のことであり、不親切という言葉では言い表せないほどの時代があまりにも長かっただけでなく、先述したダメージ計算と努力値の話のように、ポケモン対戦において「不正な」情報を活用することが前提にあると受け取れる仕様になっているのも事実だ。仮に一切の「不正」が禁止されていたならば、今のポケモン対戦はなかったという見方ができるほどである。
チャンピオンズから参入したプレイヤーには想像できないほど、このように「不正」が、世界大会まで行われるほどのコンテンツであるポケモン対戦を支えるインフラとして、不親切な公式側の代わりに機能してきたという特異性があるのだ。